学校教育側の変化~学習指導要領の理解

1.学習指導要領

「学習指導要領」は,「学校教育法」の規定をうけて「学校教育法施行規則」で定められており,法体系に位置付けられている。ここでは、「何を」「どこまで」 「どのように」学習するのかについて、かなり詳細に定められていて、この指導要領をもとに教科書が作成されている。この指導要領の下、全国どこでも誰でも均質 的な教育を受ける権利が保障された形。

この指導要領はあくまで標準形を示したものなので、学習進度によっては教師の裁量によってアレンジすることは可能であるが、最低限「何を」「どこまで」は網 羅しなければ、「未履修」ということで大きな問題が生じることになる。今のコロナ禍で休校やオンライン授業が余儀なくされ、この最低限レベル担保が危ぶまれた ことは記憶に新しい。というのは、こうした学習を完遂するための授業時間数も定められているため、時間数確保が困難なコロナ禍対応では大きな問題となったわけ だ。このコロナ禍による学習環境変化は、後年、我が国の人材育成面で問題が表面化する危険性も指摘され、これは日本だけでなく全世界規模での問題という性格を 有したものとなっている(日経新聞)。

さて、学習指導要領は10年ごとに改訂されているが、概ねそのスパンで社会動向が変化することに対応できるような修正機能を持たせている。少し前までのもの は「ゆとり教育」という、「何を」「どこまで」ラインをやや下げた教育目標だったが、現在は、急展開して「何を」「どこまで」についても、一気にライン 上昇したものになっている。例えば、小学校でも「英語」「プログラミング」が入り、高校では国語や社会科科目の再編、情報科目強化などというように、「ゆとり 教育」時代からすればかなりのボリュームアップしたものとなっている。そのことで、教科書はほぼすべてにわたって分厚くなり、紙とデジタルとの併用型での学習 というような「どのように」についても大きく変化した。つまり、「何を」「どこまで」「どのように」のすべてにわたってかなりの急激な変化が今の学校教育現場 で起きているわけだ。

2.STEAM教育

ここまで急展開する教育だが、その理由はこれから日本の社会を支える人材育成ベクトルをかなり先鋭化させなければならなくなった日本の事情が強く反映してい る。今の学習指導要領は、見方を変えれば、「教育 大改革」につながるものと評価されるものがある。

大きな変化は、「国際競争力」強化を前面に押し出した内容であることだ。小学校からの英語、プログラミング教育、論理的な読解力や文書作成レベルを意識した 高校の「論理国語」など、少し前までが「ゆとり教育」のような内容であったことを考えると一気に前進したもので、同時に、大学入試改革とも歩調を合わせること で、はじめて「小中高大」を串刺しにした教育制度という側面が見られるからだ。この「国際競争力」の軸をなす教育とは、頭文字をとった「STEAM教育」と呼 ばれる理数系重視の教育である。

3.小 学校からの教科担当制

STEAM教育重視を明確化させるためには、教える教師側の強化が必須となる。小学校教員の大多数は女性教員で、必ずしもSTEAM教育適性が備わっている とは言えないのは周 知の事実だ。今回の学習指導要領が本腰を上げるという印象が強いのは、その実行力。あっという間に、2022年度からの小学校教科担任制実施とい う形に表したことだ。そこでは、「算数」「理科」「英語」「体 育」の4教科が担任制と位置付けられ、学校内で教員の得手不得手で授業科目を交換したり、近隣の 学校間(中学校含む)で教員を移動させてこの4科目の教育充実化を図るなどといった、これまでにない教育改革に着手することになった。

こうしたSTEAM教育重視は大学教育にも反映されてきており、象徴的な変化という事で、有力私大の文系学部入試に数学を必須化するなどが注目されている。

コロナ禍で世界的にIT技術需要の高まりを見せたことから考えても、我が国の学校教育における現状への批判はかなり高い。国は慌てるようにGIGAスクール構想を掲げて対応しようと躍起だが、学習塾などのような臨機応変には到底及んでおらず、改めて 日本の問題点の源が学校であることが露呈した形となった。

4.「カネは出さないが、使えるモノは何でも使う」教育

小学校、中学校と言った初等教育への公的資金投入は長期にわたって縮小している中で、今回のような思い切った学習指導要領施策に転換したわけだが、教育内容 は盛りだくさんになってもカネは出さない形だ。教員の交換などを含めて、現状の教育資源をフルに活用することで本格的な教育改革を実現させようという狙いだ。 つまり、「カネは出さないが、使えるモノは何でも使う教育」という形だ。教育資源をうまくやり繰りして、最適配置施策を展開することで成果を上げることが学校 に求められているわけで、その実践リーダーとなる校長にはかなりのマネジメント力が求められることになる。